地球温暖化により、従来の枠組みにとらわれない新しい品種への挑戦が各地で進んでいる。ボルドーのはずれ、AOCコート ド ボルドーに位置するシャトー・ティル・ペは、12haと比較的小さなワイナリー。ビオディナミを行う意欲的な生産者で、クラシックなボルドーワインを生産しつつ、新しい品種にチャレンジしている。19世紀フィロキセラ禍前のボルドーの主要品種、マルベック種100%のワインは日本にも入っているので、飲まれた方もいるだろう。このシャトーの特別なワインを試飲する機会を得た。
シャトー ティル ペ ヴァンドフランス ” レシャッペ ” 2018
Château Tire Pé Vin de France “ L’Echappée ” 2018
カステ種 Castets とマンサン種 Mancinからつくられたワイン。この2品種は19世紀末のフィロキセラ禍以前にボルドーで植えられていた品種だが、その後忘れられていた。シャトー・ティル・ペは、コート・ド・ボルドーのブドウ畑に実験的に植え、醸造、16ヶ月ジャール(陶器)で熟成させた。
カステ種Castetsは、近年AOCボルドー&ボルドー・シュペリウールに10%までの混醸が許可された6品種の1つ。かつてボルドーで広く栽培されていた実績があり、長期熟成に耐えるワインをつくることが可能なことから、ボルドーで注目されている「古くて新しい品種」の1つだ。灰色カビ病、ベト病等の病気に非常に強いことでも知られている。シャトー・シモーヌで知られる南仏プロヴァンスのAOCパレット PALETTEの補助品種でもある。
もう一つのマンサン種 Mancinが見直されている理由は、「渇水に強い」ことだ。近年ボルドーで大きな問題となっている夏季の渇水対策になるのではと考えられ、保水性の低い土壌での使用が検討されている。
シャトー・ティル・ペ ヴァンドフランス ”ラ・ノマド” 2018
Château Tire Pé Vin de France “ La Nomade ” 2018
ピノ・ドニス種 PINEAU D’AUNIS 100%のワイン。この品種は現在ロワール地方で見かけるが、元々は南西フランスやボルドーで栽培されていたという。独特のスパイシーな香味が特徴。醸造・熟成方法は上記の”レシャッペ”と同じ。
試飲したところ、熟成期間中に澱引きを行わないスタイル故、どちらも還元的な香りが強いワイン。その中ではカステ種 とマンサン種 の” レシャッペ ”は将来性を感じるワインだった。単に濃厚なだけでなく、奥行きがある。高級なボルドーワインに混醸されても大きな問題はないと想像できる。一方でピノドニス種の” ラ・ノマド ”は、ベジタルでスパイシーなニュアンスが強く、単独では今一つ。
これらのワインはAOCボルドーを名乗ることはできない。VDF ヴァン・ド・フランスのカテゴリーになってしまうが、未来のボルドーを垣間見ることが出来る。大多数のボルドーのシャトーは外部に販売せずに新品種をテストしているが、今回のシャトー・ティル・ペ Château Tire Pé以外にも、シャトー・カズボンヌ Château Cazebonne、シャトー・ボナンジュ Château Bonnangeで新品種の商品化・販売がされている。
ボルドーのシャトーで最も大規模なブドウ品種の実験を行っているのは、オーメドックのシャトー ラ トゥール カルネ。現在格付けシャトー最大の面積を持つ。2013年から様々な品種を植え、現在75品種のコレクションがある。地球が温暖化していく2050年に向けてのプロジェクトだという。今後新しい品種を試したボルドー・ワインが増えてくるのは間違いないであろう。
75品種のコレクションを持つオーメドック格付け4級のシャトー ラ トゥール カルネのHP