アンジェ Angersの食とガストロノミー、青いチョコレートとグリン

アンジェの城 chateau d'Angers
アンジェ城はアンジェのシンボル。

フランス西部の都市、アンジェ Angersの食・ガストロノミーをご紹介します。メーヌ・エ・ロワール県 Maine-et-Loireの県庁所在地で、アンジェ市の人口約15万人。周辺人口を含めると約45万人の都市。この街は、2023年に続き2024年も「フランスで住みたい街」ナンバー1に輝きました。かつてはアンジェ公国の首都として繁栄、華やかな宮廷文化が花開いた場所です。

交通
パリからTGVで片道約1時間半。日帰りも可能な街となりました。Angers St Laud駅から旧市街まで徒歩圏内。
車の場合、パリから片道約3時間です。

アンジェは、フランス最長のロワール河と、メーヌ川の合流点にあります。このエリアは、古くから農業・園芸で知られており、現在でも県の総面積の3分の2が農業部門。食文化のエリアとしては、ロワール地方に入りますが、ブルターニュ地方のイル エ ヴィレーヌ県 Ille-et-Vilaineと接するため、ブルターニュ地方の食文化の影響を受けています。

Angersアンジェ市を中心としたかつての州をAnjouアンジュといいます。このアンジュ州は現在のメーヌ=エ=ロワール県Maine-et-Loireとほぼ一致します。

青いチョコレート ケルノン・ダルドワーズ Quernon d’Ardoise

アンジェを代表するヌガティン, 青いチョコレート ルケルノンアルドワーズ Le Quernon d'Ardoise

ケルノン ダルドワーズ Le Quernon d’Ardoiseは、フランス西部、アンジェ Angersでつくられる青いチョコレート色の菓子。キャラメリゼしたアーモンドとヘーゼルナッツのヌガティンを、青く着色したホワイトチョコレートで包み込んでいます。この菓子は、アンジェ近郊で産出する平たい青いスレートの屋根材をイメージした色と形で、約3㎝四方の正方形。1960年代に考案されたこの菓子は、現在アンジェを代表する特産物となっています。

このお菓子を語るには、この地の特産物、屋根材に使われる平たく薄い青いスレート(粘板岩)を説明する必要があります。アンジェ周辺は、フランス最高品質の屋根材の産地として古くから知られており、ヴェルサイユ宮殿の屋根にも数多く使用されています。2014年良質の鉱床が枯渇し、閉山するまで、6世紀以上もアンジュの重要な産業となっていました。当然、アンジュの建物の屋根はこの屋根材で青くなり、この地方のイメージカラーとなっています。

アンジュの青い屋根材使用のパリ・ヴェルサイユ宮殿

ヴェルサイユ宮殿 青い屋根はアンジュの屋根材による 画像引用:BNF

1960年代、アンジェ在住の彫刻家、芸術家であったモーリス・プゾ Maurice Pouzet (1921-1997) は、アンジェの屋根材をイメージした菓子を複数の菓子職人に提案。当初誰もそのアイデアを採用しませんでしたが、アンジェ中心部にあるラ プティット マルキーズLa Petite Marquiseの菓子職人、ルネ・マイヨ René Maillotが、このアイデアを採用。当時見菓子職人見習いだった ミッシェル・ブレMichel Berruéと共に2年間試行錯誤の末、青色のケルノン・ダルドワーズ Quernon d’Ardoiseを開発・販売します。1965~1966年頃の話です。初期のパッケージは、提案者であったモーリス・プゾ自身がデザインしました。

1966年、ケルノン・ダルドワーズは、パリで開催される菓子展示会「インターシュック INTERSUC」で「ブルーリボン賞 rubans bleues」を受賞しました。この賞は、創造性や革新性のある菓子が受賞するものです。

アンジェにあるLa maison du Quernon d'ardoise ラメゾンケルノン アルドワーズのお店全景

1977年、ケルノン・ダルドワーズ開発に参加したミッシェル・ブレ Michel Berruéがラ プティット マルキーズLa Petite Marquiseのオーナーとなり、店舗を拡張します。2007年にWIRTZ家にオーナーが変更。ここにパン屋チェーンGrenier à Painを展開するMichel Galloyerが2012年資本参加。2015年、店舗・会社名が、ラ プティット マルキーズLa Petite Marquiseから、ラ メゾン デュ ケルノン ダルドワーズ La Maison du Quernon d’ardoiseになりました。この会社は近年業容を大きく拡張しています。
La Maison du Quernon d’ardoise
22 Rue des Lices, 49100 Angers
日月休み

青いチョコレートの製法と試食

青色のチョコレートはどうやってつくるのでしょうか。かつてはインディゴ等の青い着色料を使用していたようですが、「可能な限り自然の原料を使用する」という方針のもと、現在は、緑の「藻」、スピルリナ色素をホワイトチョコレートに加えて、青い色を出しています

★★ 現在の成分一覧 ★★
砂糖、ホワイトチョコレート(砂糖、カカオバター、全粉乳、乳化剤:大豆レシチン、バニラナチュラルフレーバー)、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ブラウンシュガー、デキストロース、次の濃縮物:スピルリナ、リンゴ、ラディッシュ、カシス

試食すると、アーモンドとヘーゼルナッツのサクサク感が心地いいヌガティンに仕上がっています。日本では、「青いチョコレート」として知られていますが、ホワイトチョコレートを青く着色してヌガティンを包み込んでいるので、一般的な茶色のチョコレートの香味はしません。ナッツ類を砂糖でキャラメリゼしたヌガティンの香味が支配的です。

最近は日本でも入手可能になっています。是非一度お試しください。

ラ グリン La Gouline -  アンジェの新しい郷土料理

アンジェのビルトキ Biltokiに並ぶラ グリン La Goulineとパイ包み焼き

ラ グリン La Goulineは、アンジェAngersの星付きレストランの料理人だったパスカル ファーブルダンヌ Pascal Favre d’Anne考案の料理で、地元の肉やキノコ、チーズ等の食材をつかったパイ包み焼き Tourteです。2017年、この料理がアンジュ地方を代表する新たな郷土料理、地方料理に選ばれました。キノコの甘味、旨味がよく出ており、これが豚バラ肉とあわさって、かなり濃厚な味わいの料理です。今では市内の飲食店や総菜屋はもちろん、スーパーマーケットでもこの料理を見つけることができます。

フランスには各地方を代表する有名な料理があります。アルザスのシュークルート、南西地方のカスレ、ブルゴーニュの牛肉赤ワイン煮込み、マルセイユのブイヤベース等々です。しかし、アンジェ市を中心としたメーヌ=エ=ロワール県Maine-et-Loireは農業が盛んで、豊富な食材があるにも関わらず、この地を代表する料理がありませんでした。そこで複数のコンクールやセレクションが行われ、2017年、75種類の料理からラ グリン La Goulineが1位に選ばれました。短期間の間に、アンジェを代表する料理の地位を確立しています。因みにこの時3位内に入賞した他の地元料理は、仔牛の尻肉(股肉)のアンジュ風 Le Cul de Veau à l’Angevineと、鶏肉のクリーム煮込みアンジュ風 La Fricassée de Volaille à l’Angevineでした。

ラ グリン La Goulineは、県内の5つの食材・料理をパイの中に詰めています(下記写真参照)。

アンジェのラグリン La Goulineに含まれる5つの地元食材、キノコ、豚バラ煮込み、甘口白ワイン、チーズ、エシャロット
画像引用:La confrerie gastrronomique de la Gouline

1) Rillauds リオー、塩を塗り込んで寝かした豚バラ肉を、ゆっくり煮込んだ料理。最後にラードで揚げて色付けしたものは、表面はカリカリ、中は柔らかいです。隣県のトゥールのリヨン Rillons
de Tours
に非常によく似た料理です。
2) Champignons Saumurois ソーミュールのシャンピニオン。日本のマッシュルームと同種。メーヌ=エ=ロワール県の東部にあるソーミュールはワインで有名ですが、フランス最大のマッシュルームの産地です。このマッシュルームがパイ包み焼の中に沢山入っています。
3) Echalotes d’Anjou IGP エシャロット ダンジュ IGPIGP(地理的保護表示)のついた、地元のエシャロット。
4) Chenin Moelleux d’Anjou、シュナンブラン種を使用した地元アンジェ地方の甘口白ワイン。コトードレイヨンが使わることが多いです。
5) Tomme d’Anjou トム ダンジュ、地元アンジュ地方のチーズ

アンジュには「プルーンのパイ包み焼アンジュ風 Pâté aux Prunes Angevin」という季節限定の甘い菓子があります。ラ・グリンは、その辛口バージョンでしょう。この料理を考案したパスカル ファーブルダンヌ Pascal Favre d’Anneは、次のように答えています。「ラ・グリンのようなパイ包み焼を60年以上前にアンジュのレストランで行われた結婚式で食べた人がいる」と。つまり、ラ・グリンは彼の創作ではなく、昔からあったこの地方の食材を使った伝統にインスパイアし、現代の形で再現したということのようです。一方、ラ・グリンLa Goulineの名前の由来は、地元の方言で「いいお顔」「子供のにっこり笑顔」の意味で、2017年に地元の方言に詳しい人からの提案でつけられた新しい名前です。

常設高級食品市場、アンジェ ビルトキ Biltoki Angers

アンジェ、ビルトキBiltoki に並ぶ菓子パティスリー、パリブレスト、レモンタルト、サントノレ、イチゴヴァニラタルト

フランス各地に展開している常設高級食品市場がアンジュにはあります。ビルトキBiltokiという聞きなれない名前は、バスク語で「人々が集まる場所」という意味。バスク出身者4名がスペインとの国境に近いアングレット Angletに 2009年創業。現在10の都市で展開し、さらに拡大していく予定です。日本の「デパ地下」に近いイメージで、選りすぐられた地元の高級食材が中心。肉屋、魚屋、チーズ屋、総菜屋、パン屋、パティスリー、ワイン屋等が並びます。ビストロ&ブラッスリーもあるので、その場で食事も可能です。リヨンに詳しい方にとっては、「ポールボキューズ市場」に近いイメージの場所でしょう。

アンジェのビルトキBiltoki に並ぶ生牡蠣

アンジェ市内のビルトキBiltokiは2023年オープン。上記のラ グリン La Goulineもここで食べることができます。地元の食材・料理が並び、その場で食べられるので、旅行者には非常に興味深い場所です。

Biltoki Angers アンジェ ビルトキ
Les Halles Cœur de Maine
2 Rue de la Poissonnerie, 49100 Angers
月曜休み

コワントロー Cointreau

コワントローは世界的に有名なオレンジリキュール。今でもアンジェ郊外の Saint-Barthélemy-d’Anjouで生産が続けられています。アンジェは昔からリキュール類製造で知られ、19世紀末には15社が製造していました。現在アンジェ周辺にはコワントロー Cointreauジファール Giffardのみが残っています。

コワントロー COINTREAU のボトル
画像引用:WIKIPEDIA

現在、コワントローの工場を見学可能です。下記のHPから予約可能。様々なプログラムが用意されています。

Cointreau コワントロー
2 Boulevard des Bretonnières
49124 Saint-Barthélemy-d’Anjou, France
https://www.cointreau.com
アンジェ市内バス+徒歩

アンジェ美術館 Musée des beaux-arts d’Angersとキュルノンスキー

アンジェ美術館にある2枚のフラゴナールの絵
アンジェ美術館にあるジャン オノレ フラゴナールの絵

アンジェの美術館は14世紀から20世紀までの幅広い絵画や彫刻の展示があります。それだけでなく、アンジェの街がどうやって発展していったかを辿ることもできます。

美食の帝王 curnonskyと呼ばれたモーリス・エドモン・サイヤンの銅像
キュルノンスキーの銅像

この美術館には、キュルノンスキーCurnonskyの名前で知られた評論家Maurice Edmond Sailland (1872 – 1956) の銅像があります。 美食の王様として知られ、フランス料理の世界に多大な貢献をしたキュルノンスキーはアンジェ出身で、幼少期をこの地で過ごしました。

Musée des beaux-arts d’Angers アンジェ美術館
14 Rue du Musée, 49100 Angers
月曜休み

アンジェのパン屋、ブランジェリー・カルム Boulangerie des Carmes – Angers リシャール ルアン Richard Ruan

MOFフランス最高職人賞を持つアンジェのパン職人リシャール ルアン Richard Ruan
リシャール・ルアン

2000年にパンのMOF(Meilleur Ouvrier de France、仏最優秀職人)の称号を得たリシャール ルアンのパン屋です。アンジェ旧市街からメーヌ川を渡った場所にあります。あらゆるパンのレベルが非常に高く、ここまで足を運ぶ価値があります。ここで学んで独立した日本人パン職人達がこの地にいるのも納得です。2024年10月9日のニューヨークタイムズで、「ここのブリオッシュは世界一!」と取り上げられましたが、納得できます。
La Boulangerie des Carmes à Angers ブランジェリー・カルム
21, boulevard Henri Arnauld, 49100 Angers
日月休み

アンジェのブランジェリー・カルム Boulangerie des Carmes に並ぶパン
アンジェのパン屋Boulangerie des Calmes ブランジェリー デ カルムの入口
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